「・・・はい?」
「いや、だから殴られたんだって。美姫センパイの男に。」
こいつ、何を言い出すかと思えば、また・・・。
私は、少し見上げたところにある遊馬|《あすま》の顔を見上げて、はあっとため息をついた。
会って早々、何の突拍子もなくただ「殴られた」とだけ言われたら、誰だって聞き返したくなる。
「腹減った」と言いながら私の隣について歩き出す遊馬は、今日も今日とて無駄に綺麗な顔をすませてやがる。でも、赤く紅葉の形に腫れた左頬は痛々しいし、口元からは血が滲んでいる。
どうやらまた女絡みのいざこざを起こしたらしい。
・・・この男の女絡みのいざこざ聞くの、何十回目なんだろう。
高校生2年目の5月。私は高校生になってから、この困った幼馴染・・・佐野遊馬の女関係の話を、両手の指全部折ったって足りないくらい聞いている。