「柚果、海行こうよ。えー、ジムのプールならいつも行ってるじゃん。
わかってるけどー。うん、じゃあ、また帰りお茶しようね。うん、バイバイ」
電話を切って、鈴花は退屈そうにベッドに寝転がる。

高校に入って初めての夏休みなのに、親友の柚果はダイエットで忙しくて遊んでくれない。

鈴花は話をする程度の友達は多いけれど、遊びに行くのは柚果ぐらいだ。

ある理由で中学の時に苛められたことがあり、親しい友達を作るのは得意ではなかった。

結局今日もジムを訪れる鈴花。
運動は特に好きではないけれど、この夏はここにばかりいる。

お洒落が大好きな鈴花は、スタイルがよくなければ色々な服を着こなせないとわかっているから、そのための努力は苦でもないのだが。

今日は河川敷らしく、柚果の姿はなく、拓馬も見当たらなかった。

「こんにちは」
爽やかな笑顔で鈴花に挨拶してきたのは、正樹だ。
ジムのジャージを着ているところを見ると、今日はバイトらしい。

「こんにちは。先輩、今日、バイト何時までですか?」
そう声をかけたのは気まぐれだった。

「え?4、4時まで、だけど」
目を丸くして正樹が鈴花を見つめる。

「その後お茶でもしませんか?よかったら」
首を傾げて微笑む鈴花。

こうすると大抵の男が見惚れることを、鈴花は知っている。
正樹はみるみる真っ赤になっていく。

「い、いいけど……」

「じゃあ下の本屋さんで待ってますね」
鈴花は小悪魔のような笑顔を正樹に向けた。