続・闇色のシンデレラ

駄々をこねた志勇は、たまたま本家に来た颯馬さんに仕事を丸投げして、わたしについてきた。


本人曰く『嫁の一大事に付き添わなくてどうする』という精神らしい。


ああ、颯馬さんごめんなさい。



かくして、やってきた区内の総合病院。


以前お世話になった、鳥飼先生親子はお元気だろうか。



「ほっほ、お久しぶりです。お元気ですか壱華様」

「ご無沙汰してます。院長先生もお元気そうで何よりです」



特別棟の玄関で待ち構えていたのは、白髪のおじいちゃん先生と、その息子で産婦人科医の比較的お若い先生。



「それから、急に診察を入れてごめんなさい」

「いいえ、そこは配慮なさらないで結構です。
最近医師を増員いたしましたので。
ところで、今日は産婦人科の診察をご希望とのことでしたが……」



どこか猛禽類を思わせる風貌の院長先生の息子さんと話していたら。



「産婦人科っつった時点で分かるだろ。
おめでた、だ。早く案内しろ」



わたしの肩を抱いて、横槍を入れてきたのは狼。


もう、診てもらうのにその態度はだめでしょ。それに───



「志勇っ、まだ分かんないんだから、そんな自慢げに言わなくていいの!」

「は?悪いことじゃねえんだからそんな恥ずかしがるなよ」



さっきまであんな驚きまくってた人が、よくもドヤ顔で自慢できるもんだ。


もう、恥ずかしすぎて連れてくるんじゃなかったかも。



「ほっほ、初々しいですなあ。いやはや、いい春だ」

「……そうですね。それは朗報ですね」

「あ、ありがとうございます?」



でも祝福されたから、一応礼を告げておいた。





「ふぅん……“あいつ”も変わったな……」

「え?」

「いいえ。では、参りましょうか」



そんなとき、仏頂面の院長の息子に顕れた変化。


なんと彼が笑ったのだ。


切なげに微笑んだ彼は、瞳の奥に誰かを浮かべているようだった。