「ごめ、んなさい……」
驚いて壱華の体を180度回転させ、俺と正面合わせにする。
その頬は濡れていて、目尻から溢れた雫を追って、次々と涙の粒が滑り落ちていた。
まったく、こんなになるまで我慢しやがって。
「もう大丈夫だ」
ひたすら強い力で抱きしめてやる。
すると壱華は、嗚咽混じりにあのガキを助けたかったと言った。
だけどこの世界に慈悲は通用しないから強気な姐を装ったと。
「お前らしいよ」
出会ったときから変わらず優しい壱華は常にそうだ。
自分を犠牲にして大切なものを守ろうとする。
俺に迷惑をかけるわけにはいかないと、何度も突き放そうとしたように。
「けどそうやって無茶はすんな。
お前だけの身体じゃねえんだから」
「うん」
とにかく本音を聞けて安心した。
確かに安心した───はずなのに。
「ただ、今回は俺が近くにいてやれてよかった」
「うん、ありがとう志勇。もしそばにいてくれなかったらどうなったことか」
「だろ?また何かあってからじゃ困るから、やっぱり産むまではここに……」
「ううん、本家にはちゃんと帰るよ」
「あ゙?」
どさくさ紛れの帰省阻止に待ったをかけられ、俺の心情はころりと豹変した。



