わずかに開けたドアの隙間から、クスクスと笑い声が聞こえる。


さて、この後の展開を見るのは面白そうだが見つかったら面倒だから帰るか。



「どういうことだ壱華!?」



フロアを歩きながら、兄貴の声を耳にする。



「なに?呼び捨てで呼び合ったらいけないの?」

「おい、なんだその反応。まさか……ケーキをエサにされたのか?
甘党だからってたかがケーキで颯馬に釣られたのか?」

「うん、ケーキすっごくおいしそう。颯馬のチョイスもいいよね」

「クソ、絶対あいつにケーキ買わせねえ!」




「ぶふっ……」


あの帝王と恐れられる男が、ケーキごときにガキみたいに騒ぎ立てるとかとかウケる。


やっぱり最愛の女のことになると途端に弱くなるし嫉妬心むき出しになるんだよな。


もちろんこれは悪ふざけだけど、彼女の義弟としてもっと仲良くなりたかったのは本当。



「あー、スッキリした!」



俺だって色々我慢してんだ。これくらいの嫌がらせはしてやってもいいだろ。


今の俺、すげえ生き生きしてる気がする。



「生き生きしてる、ねえ……」



さっき壱華に言われたことが引っかかる。


確かに今でも気持ちは変わらないから過去に囚われるわけで、そう認めたら悩むのもアホらしくなってきた。



「よし、今のこと涼に報告しようかな」



俺もようやく一歩踏み出せそうだ。