「ねえ、ところでさ」



いいことを思いついた。



「兄貴と結婚してさ、俺と壱華ちゃんはいわば家族になったわけじゃん?」

「はい」

「それなのにまだ敬語でさん付けって距離感じない?」



これなら彼女は兄貴に仕返しできる。俺もスッキリする。一石二鳥だ。



「確かに……でも、なんかタイミング逃しちゃって」

「だよね。だから今日から颯馬って呼んでいいし、タメ口でいいよ」

「……はあ」



……反応が鈍い。突然こんなことを提案されたら理解不能だよな。


しかしこれは提案じゃない、作戦だ。壱華ちゃん気づいてくれ。


分かりやすいようウインクとかしてみる。


すると数秒後、ガチャリと扉が開いて兄貴が帰ってきた瞬間、壱華ちゃんの頭はフル回転してその答えを見出した。



「分かった。そうするね」



兄貴に聞こえるようにボリュームを上げ、いい顔で返事する彼女。


よし、これは通じたな。




「オッケー、じゃあ体調に気をつけてごゆっくり。
じゃあね、壱華」

「うん、ケーキもありがとう。
また明日ね、颯馬」



唖然とする兄貴をはた目にいかにも仲良さげに挨拶を交わす。


「……」


兄貴は何かがおかしいと眉間にシワを刻む。


その思考回路がつながる前に、俺はすっと扉の向こう側に出た。