彼女の美しい笑みに反応して、思い出のうたかたが弾けた。


そうだ、回想は最後まで行き着いていなかった。


俺の過去話は兄貴の側近になったことで終いじゃない。


その後のことだ。



側近という仕事は多忙を極め、危険も伴うため、涼との時間がほとんど取れなくなった。


それでも涼との関係は続いていた。


涼をひとりで悩ませ、我慢させていたにも関わらず、ずっと続くものだと思っていた。



高校を卒業した6年目に、突然終止符を切られるまでは。


最後の別れを告げたのは涼だった。





「颯馬さん?」



うたかたの余韻(よいん)が消える。


焦点をしっかり定めると壱華ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。


まずい、怪しまれる。何か、何か話題をみつけなくては───そうだ。