続・闇色のシンデレラ

荒瀬組の事務所にはここから車で30分。


夕刻の空に影絵のように黒く浮き上がるビル群を眺め、ひとつため息をつく。


道理でやけに親切だと思った。


あの兄貴が、「今日はドライバー用意してやるから好きなとこに行け」と事務所の若衆を車を出させたのは、こうなることの布石だったのか。

都合のいいときに呼び出せるよう、そう仕向けていたんだろう。


まったく人使いが荒い。


あの男は昔からそうだ。過去を顧みると、いかに横行を働いていたかよく分かる。






兄という男は、物心ついたときから俺にとって強烈な存在だった。


初めて「嫌いだ」という感情を覚えた人間があいつだったからだ。





2歳のとき、兄貴のぬいぐるみで遊んでいただけで、思い切り殴られて生えたばかりの歯が欠けた。


3歳のとき、うっかり兄貴のおやつを食ったら腹いせに本家の池に突き落とされ死にかけた。


5歳のとき、そんな兄貴に嫌気がさして喧嘩になり殴り合いに発展し、腕の骨を折られた。






……思い返すとまだまだあるが、これだけでいかに理不尽だったか分かる。


よく耐え抜いて生きてきたもんだ、俺。


それに物理的な私物ならまだしも、母親の愛情ですら独り占めしようとしていた。


自分には付き人がいてちやほやされて、他の面でも俺より遥かに優遇されてるのに。



まあ、そんな兄貴を出し抜くために『狡猾な立ち振る舞い』ってのを身につけたが。


それを心得ることができたことだけは感謝している。