続・闇色のシンデレラ

そんなことがあって幾ばくか過ぎた。



「颯馬、携帯鳴ってない?」

「ん、ほんとだ」



着信を知らせて震える携帯がうるさい。


なんだよ今日くらいゆっくりさせろ、とディスプレイを確認したらやっぱり兄貴からの着信が。


ついでに見た時計は18時と表示されている。なんだ、こんなに時間過ぎてたんだな。


それより兄貴から電話かけてくるとは珍しい。どうせろくなことじゃねえだろうが、一応取ってあげた。




「おい、颯馬。今すぐ帰ってこい」

「どうした?」

「どうもこうもねえ壱華が……」

「なにー?壱華ちゃんが可愛すぎて辛いって?それは俺にはどうにもできない話……」

「うるせえ、とにかくなんか甘いもん買って事務所に来い!」



通話はものの数十秒。しかも最後にパシられた。


切迫感が漂う様子だったが、どうせ痴話喧嘩とかそんなとこだろ。


まあ、潮崎のオヤジの言葉に甘えて長居しすぎたし、帰るとするか。




「ねえ、この辺でオススメのケーキ屋とかある?」

「は?」



そこで涼にこう尋ね、事情を語った。



「……忙しいね、相変わらず」



どこか寂しげに呟く涼を横目に座っていたソファーから立ち上がる。



「兄貴がわがままなだけだよ」

「あれはもうわがままなんてレベルじゃないでしょ。横暴にも程があるわ」

「だろ?毎日ストレス溜まりまくりだよ。
だから助かった。話聞いてくれてありがとう」

「ううん、久々にいっぱい話せて楽しかったよ」

「……そう言ってもらえると嬉しいよ、またね」

「うん、じゃあね」



じゃあね、か。もう「またね」とは言ってくれねえんだ。


別れ際の挨拶は「またね」がいいっていったのは涼なのに。


なんて3年も前の約束事を留意している自分を知って、今度は俺がひきつったように笑った。