そんなこんなで結局命令に従ってしまう俺は、若頭補佐という仕事が板についてきたと思う。



「きゃあ、いらっしゃいませ!今日は颯馬様おひとりですか?」




水尾組組長の自宅に入り、仕事の話をしていたところ、案の定現れたのは水尾のお嬢。


は?隣に剛がいるのに、ひとりってどういうことだよ。


まったく、剛の良さが分からない女はその時点で無いな。



「おお、佳歩(かほ)。おいで」

「本家の方が来ると聞いて、佳歩はもう楽しみで楽しみで!」



その女は父親に呼ばれるや否や俺の腕に自分の腕を巻き付け座る。


くっそ、無駄にでかい胸を擦り付けてくるんじゃねえよ。


気色悪くて剛に助けを求めると、無言でうんうんと頷いて耐えてくれと目配せする。


そんなに必死に対応してくれて、ありがとう剛。


俺、お前がいなかったら多分素が出ちゃってるところだよ。





「志勇様はどちらへ?」

「申し訳ありません、若はお忙しくて。
新婚でいらっしゃいますし、今日は私が参りました」

「ふーん……」



まだ兄貴に興味があるらしいこの女は、性懲りもなく情報を聞き出そうとする。


しかし、新婚、と思い切り強調すると静かになった。


前ならいちゃもんをつけていただろうが、兄貴の結婚相手は何を隠そう、あの西雲会の統帥の孫娘、つまり西のプリンセスだ。


彼女に手を出そうもんなら最悪の場合西雲会が動くし、どう足掻いても手出しなんてできない。


正月に壱華ちゃんにちょっかいをかけてきたこいつも、さすがに口を尖らせるしかない。


ざまあみろ。心の中でこっそり毒づいておいた。


こいつの腹の底の醜悪さを甘く見て。