「水、飲むか?」
「いら、ない……」
寝室に運んでベッドに下ろしてくれた志勇の口数は少ない。
それでも思いやる愛情を感じて、来ないでなんて言ったひねくれた自分に嫌気がさした。
志勇はわたしの前に立って腕を組み、しばらく何かを考えるような素振りをすると、ソファーに座って顔を覗き込んできた。
「……厨房のにおいで吐くのか?」
図星を差されうつむく。
「それを誰かに相談したりは?」
ふるふると首を横に振る。
彼に知れてしまったら、下手な言い訳をする方が苦しいだろう。
次第に嗚咽が治まってきたので口を開いた。
「……相談しないんじゃなくて、できないの。
せっかく離れを貸してもらってるのに、そんなこと言ったってどうしようもない問題だし。
わたしが我慢すればいい話……」
「そこは我慢するところじゃねえよ」
「……」
「人に頼るってのは、自分のしてほしいこと言えばいいだけだ。
気持ち押し殺さずに言ってみろ」
「やだ……迷惑になる」
「人に迷惑かけることと人に頼ることは違う。
……だから俺にくらい、甘えろよ」
だけどそんなに優しくて声をかけられたら、胸の奥が締めつけられて───押し殺していた感情と涙を呼び覚ました。