「あれはズルいわ……」



その後、部屋でひとり頭を抱えながら唸っていると。



「惚れんなよ?」

「へ……?し、紫音さん!!?」



なんと、屋根裏部屋の扉を開けて顔だけひょっこり覗かせた紫音さんと目が合った。



「琴音とお茶したんだって?いいなぁ楽しそうで」



ヤバい、シスコンの紫音さんは敵意剥き出しだ。

てか忙しいのにどっから嗅ぎつけてきたんだよこの人!



「ははっ、そんな顔すんなって。取って食うわけじゃねえんだから」

「あの……どうしてこちらへ?」

「仕事の資料を持ってきただけだよ。これ、読んどいてくれ」

「は、はい。わざわざすみません」



とりあえず持ってきてもらった資料の入ったファイルへ手を伸ばす。

が、掴んだ後も彼は一向に手を離してはくれなかった。

ああもう、今度はなんだよ!



「あの、まだ何か?」

「琴音に手を出したら承知しねえからな」



凍てつくような眼差しに血の気が引く。

当たり前じゃん、そんな牽制されて手を出すなんてバカな真似するわけねえだろ。

なんて言葉は飲み込んで、そっと扉を閉じた紫音さんの気配が消えるのを待った。



「本家に帰りたい……」


数分後、緊張状態から解かれた俺はぼそりと呟いた。

本家を離れて1年、初めて弱音を吐いた瞬間がこれって……なんなんだよほんと。