続・闇色のシンデレラ

「志勇が早めに仕事切り上げてくるなんて聞いてなかったよ」

「俺にお前の日程教えなかったお返しだ。ちょっとしたドッキリ」



それから離れに移動して、とりあえずゆっくりしようとお茶を入れている最中。



「それにしてもなんで黙ってた?急に病院なんていうから壱華が倒れたのかと思って焦っただろうが」

「ごめんなさい」

「まあ司水と楽しそうに話せるくらい回復したからいいか」

「……なんでそんなことばっかり言うの?いじわる」

「あれは浮気現場にしか見えねえ」



ダイニングテーブルに座った志勇は不服しか零して来ない。



「志勇の話で盛り上がってたのに……」

「嘘っぽいな。だいたい剛にも颯馬にも連絡よこさないなんて、他に考えがあったんじゃないのか?」



トゲを突き立てるような口調に手を止める。



「考えって?」

「ひとりになりたい。もしくは俺から距離を置きたい、とかな。
誰にも相談しない、誰も頼らない。
まるで孤独に逃げているようにしか思えない」

「違う!わたしはただ……」



みんなに迷惑をかけたくないだけ。


これまで疑うことしかできなかったから、頼り方が分からないだけ。


それが言えなくて視線を手元に落とす。



そんなとき、ふわと感じ取った感覚。



「うっ……」



厨房で調理をしているにおいが流れ込んできた。


このにおいを嗅ぐと吐く、という記憶回路が出来上がってしまっているのか。


茶葉のにおいと交ざりあって耐えられないような異臭に感じる。


胃を押し上げて何かが喉元を上がってくる。




「……最悪」

「壱華?……おい!」




吐き気を飲み込むことができず、急いでカシャンと急須を置いて、口を押さえてトイレに駆け込んだ。