「壱華、どうした」



現れた志勇にわたしは腰を押さえながら言った。



「陣痛が来たかも…」



すると志勇は特に慌てる様子もなくわたしに近づきながら声を発した。



「最近腰が痛いって言ってたもんな。それとは違う感じか?」

「今までのは生理痛に似た感じだったけど、なんかこう…骨盤が、骨が痛む感じ」

「そうか……病院行くか?」

「いや、痛みが20分間隔だし、初産だったら最低でも10分は切らないと入れてもらえないかも。
……ちょっとトイレ行ってくる」

「ああ、念の為いろいろ準備しておくな。なにかあったら呼んでくれ」

「うん」



ゆっくりと部屋を出ようとするわたしは、志勇にありがとうさえ言えないほど余裕がない。

世のお母さんはみんなこの痛みを乗り越えたのかと思うとわたしも頑張らなきゃ……とはならない。

早くこの痛みから開放されたい一心だった。



「あ……」



トイレに行くとやはり出血していた。

ここ何日か茶色いおりもののようなものが出ていたけど今回は鮮血だ。

……病院に電話するべきか。



「あいたたた……」



そう思った矢先また陣痛が来た。



「大丈夫か!?」



鍵をしていなかったので、なんと志勇がドアを開けてきた。

えっ?と思ったけど当然ツッコめる状況ではないのでスルーした。

とりあえず大丈夫だと彼の目を見てうなずいた。

片手には入院用に用意していたバックを持っている。



「俺にできることはあるか?」

「とりあえず、ドア、閉めて……」

「ああ……悪い」



意外と志勇も緊張しているんだろうか。

普段こういうことがあったらいじわるしてくるものだけど普通にドアを閉められた。

あの冷酷な帝王が嫁の出産を前にどぎまぎしてるなんて。

少し笑みがこぼれた。

……こんなこと考えるなんてまだ余裕あるな、と便座から重い腰を上げた。