壱華は幸せそうに腹を撫でていた。

俺は少し身を乗り出して、その手に自分の手を重ねた。



「もう少しだな、予定日まで」

「そうだねぇ、11月になったら会えるね」



か細い華奢な手足に不釣り合いな、大きく膨らんだ腹。

それを眺めながら無意識に呟いた。



「早くこの手で抱き上げたい」



口から飛び出した言葉に驚いた。

我が子の誕生を今か今かと渇望しているのだ。

壱華以外にとんと興味がなかった俺が、だ。



「……すっかりパパだね、志勇」



そんな俺を見てくすくすと笑い茶化す壱華は心の底から幸せそうな表情をしている。

……そんな顔、できるようになったんだな。

出会った頃の壱華を思い出した。

表情は固く心は冷え切り、俺と目すら合わせなかった悲劇の少女。

今の壱華はそれにまるで一致しない。

目の前にあるのは美しく微笑む心身ともに健全な女の顔だ。



「なに?そんなにわたしの顔見て」



なんて、客観的に観察している俺に首をかしげる壱華の目の奥は澄んでいた綺麗だ。



「いや……綺麗になったと思ってな」