「志勇のにおい……落ち着くの。
吐き気も、治まる気がするから……近くに置いてた、の……」
消え入りそうな音量で喋っても、恥ずかしくて段々言葉に詰まってしまう。
ようやく全て説明できたときには顔は湯気が出そうなくらい熱かった。
「それだけ。だから決していやらしい意味じゃあ……」
「軽く変態だな」
「っ!どうせそんなこと言うと思ったから言いたくなかったの!」
ところが志勇はクールな表情を崩壊させて、フェロモン全開に笑い、変態だの好き放題に馬鹿にしてくる。
「ククッ」と喉を鳴らしてわたしの体を抱き寄せる志勇。
「もうやだ!離してよ」
「誰が放してやるか」
でも彼が愛情という名の拘束を解いてくれるはずがなく、わたしの頭を自分の胸に預けさせる。
暴れてやろうとしたけど息を吸い込んだら、志勇のにおいが鼻腔をくすぐって、その気が失せた。
……本当にこのにおい落ち着く。
「あー……可愛い」
「……もう」
抱きしめて耳元で囁く志勇。
どの口がそんな甘い声で甘いセリフを言うんだか。
相変わらず意地悪言ったり褒めたり、アメとムチがお上手ですこと。
「俺のにおいで落ち着けるんだろ?」
「……うん」
それでも限られた時間で志勇をもっと感じたくて、背中に腕を回す。
「なら、ずっと俺と一緒にいればいいじゃねえか」
「……」
……ずっと一緒にいる?それができたら苦労しないよ。
志勇に迷惑をかけたくはないからその提案には答えない。
代わりに、すがりつくように抱きしめる力を強めた。



