翌日。その日は出張に出ていた志勇が戻ってくる日だった。

わたしは昨日と同じように、運動不足を解消しようと本家を歩き回っていた。



「うわっ!」



中庭に面した廊下に差し掛かった時、辺りに響いた子どもの声。

憂雅くんかな?と声がした方に向かうと、尻もちをついた子どもの後ろ姿と、手を差し伸べる男の姿が目に入った。




「ごめんな憂雅、大丈夫か?」

「うん、おれ強いからね!“こーが”こそ大丈夫?」



憂雅くんはすぐに立ち上がり、目の前の男と、光冴とむきあう。

光冴は憂雅くんの言葉を受けてにこやかに言葉を返していた。



「おれは憂雅より100倍強いから平気だよ~」

「え?じゃあおれはこーがより100万倍強いから平気だよ」

「100万倍?じゃあ俺は……あ」



ところが光冴はわたしと目が合うと、憂雅くんと戯れるのをやめた。



「おはよう」

「おはよう壱華ちゃん」



挨拶をすると光冴は微笑んだ。

昨日の一見もあってか彼の表情はとても明るくなっているように感じた。

わたしはそれを見てなんだか胸の辺りがあたたかくなった。



「壱華!?壱華だ!おはよう」

「おはよう憂雅くん」

「あのね!ケーキ食べたよ、おいしかったよモンブラン!凛兄ちゃんのケーキもちょっと食べたの!おいしかった~」



暑さも吹き飛ばすような憂雅くんの声に自然とわたしも笑顔になる。

光冴も「食いしん坊だな~」と憂雅くんの頭をわしわし撫でた。ところが私と目を合わすとハッとして口を動かす。



「壱華ちゃん、そういえばなんだけど」

「ん?」

「司水さんが呼んでたよ」