「光冴」



自分の名を呼ばれた光冴の表情は自信なさげだった。



「あえて言葉にするね。
わたしはあなたのした行為を許すつもりはない。
だけど、時間が経つにつれて、心のどこかで光冴を気にかける自分がいるの。
今にも闇に飲まれそうで不安定な存在を自分と重ねてしまう」



それほど罪の意識が強いのだろう。突き放したいのか、それとも救済の手を差し伸べたいのか、どちらとも取れる私の言動に一喜一憂している、そんな様子だ。

それは一方で、わたしの発言一つで彼が今後どう動くのか支配できるということ。

支配することは好きじゃない。言い方は悪いけれど「使える」彼を潰さずに荒瀬に置くためにも、わたしの間に出来た深い溝を埋める必要がある。

建前はその考えだった。




「水に流すわけじゃなく、その意識を忘れないように、わたしについてきて欲しい。
今度こそ、心から信頼し合える仲間になって欲しい」




だけど言葉になったものは命令ではなく願望で。

その言葉が余計、光冴の揺れる心に追い打ちをかけたのか。



「……」

光冴は声もなく涙をこぼした。

あふれ出た感情の一部に、驚いて口元を押さえる彼。



「ねえ、光冴。受け取って」



人が涙する姿を見て何も感じないわたしじゃない。

だけどこれ以上は感化されてしまう気がして、わたしは冷静に光冴に話しかけ、白い紙箱を差し出した。

光冴は涙に濡れた顔でそれを受け取った。