「失礼いたします」


1人で部屋に来てほしいということだったので、荷物を司水さんに預け、私はお母さんが待つ金獅子の間の襖の戸を開いた。


「どうぞ、座って」


ところが、そこにいたのはお母さんだけではなく。

獅子のような風貌で私を見据える、組長があぐらを掻いて座っていた。

その姿を見た私は、極端に顔をこわばらせ彼を凝視してしまった。

そして思わず、「私を苦しめた元凶が何の用だろう」と考えてしまった。

あの事件の黒幕が義理の父であるなんて未だに信じられない。

私は動揺を隠すように、静かに戸を閉め彼らの前に正座した。



「あの……私はどういった用件で呼ばれたのでしょうか」



しかし一向に彼らが口を開く気配がないため、声を発してみる。

すると、お母さんがゆっくりと力なく、組長さんに顔を向ける。

その瞳はやけに陰っていて普段のお母さんらしからぬ動作だった。



「紘香から、お前に話がある」



すると、組長である義父が顔を険しくして一言呟いた。


「その前に……」


その時だった。彼は私を見つめたかと思うと、思いもよらぬ行動に出た。




「お前に謝りたいことがある。
身重の娘に、本当にすまないことをした」





頭を低く下げ、私に対して、謝ったのだ。

自分より格下の、若頭の女に。

それはいくら義理の娘といえど、極道の男としてあり得ない行為だった。




「悪かった。この通りだ」




彼は一向に頭を上げようとしない。

私は突然の行動に眉をひそめ、ひたすら目の前にある男のつむじを見つめていた。