「いいこと教えてやろう、凛太郎」

「は、はい?」



病室を出て廊下を歩いていたら前を歩いていたアニキに話しかけてきた。

口数の少ないこの人が俺にわざわざ話しかけてくるなんて珍しい。

思わぬ展開にドキドキしていると。



「若は自分が認めた人間以外とは全く会話しないタイプでな」

「え……?」

「身内でも気に入らん奴は完全に無視だ。自分から話しかけるなんてことはまず無い」

「そうなんですね……」

「つまりは凛太郎、お前は若に認められたんだ」



そう言われ驚いた。

俺ごときのガキに期待されても、何も出来ないのにと。

すると前を歩いていたアニキが立ち止まった。



「この程度のプレッシャーに押しつぶされるなよ。
お前には、根性と頭脳と伸び代がある。お前にはこの世界を生きる覚悟がある。
こんな世の中だ、断言なんて出来ないが俺はお前の味方でありたい。何かあったら俺に言え」

「アニキ……はい!」



それだけ言うとまた歩き出したアニキ。

かっこいいなぁ、こういう人が男の中の漢ってやつなんだろうな。

荒瀬の男は恐ろしいだけじゃないんだ、皆義理と人情を重んじているんだ。

俺の苦しい過去は消えない。でも、ここでならいつか乗り越えられる気がする。

俺はアニキの広い背中を見つめながら、気合を入れて歩き出した。