たった今まで生死の瀬戸際だったというのに、その時は危機感がまるでなかった。

ただ、視界に映る女性の美しさに目を奪われている。

それほどまで魅力的な女性。

だけど何か、人と違う空気感を漂わせていて。



「……荒瀬さん」



ゆっくりと開く赤い唇。

ハッとして彼女の瞳を見つめ直した。



「お怪我は、ありませんか?」

「……」

「……危ないところでしたね。間に合って本当によかった」



眉を下げて、困ったような表情を作る彼女。

そんな表情ですら美しいのに、どこか不自然で。

警戒心がよみがえり一歩身を引くと、彼女は歩きだそうとしていた足を止めた。