「……ありがとね、凛」
それから、雨が本格的に降り出した頃。
わたしは本家に戻っていた。
「いえ、勝手に感情的になって、すみません」
そばにはスヤスヤと眠りにつく憂雅くんと、彼を寝かしつけた凛。
わたしは彼らの部屋にいた。
「ううん、あなたがいなかったら、わたしはきっ冷静になっていられなかった」
「……」
「すごく怖かったの。あの人から離れなきゃって思えば思うほど体がいうことを聞かなくなって。
でも、凛がいてくれたから助かった」
先ほどの一件の後、凛に一喝されたおばさんは魂が抜けたように自ら人混みへと消えた。
あれだけプライドの高い女だ。
わたしに対してひどい扱いをしていると分かっていても、実際に大勢の人の前で「あんたは間違ってる」と口に出されてショックだったのだろう。
「……とんでもない。俺はただ……」
そうしてわたしを救ってくれた凛は、安らかに眠る憂雅くんの頭をなでながらぼそりと呟く。
「ただ……?」
意味深な途切れ方をした彼の言葉の続きを聞こうと首を傾げる。
ところがだ。
「壱華……!」
突然、誰かに呼ばれた気がした。
「……」
「……」
目を見合わせるわたしと凛。
「どうぞ、続けて?」
「え、でも、今……」
気のせいだと言い聞かせようとしたけど凛の耳にもしかと届いていたらしく。
「おい、司水、壱華は!?」
「壱華様、ですか?あちらに……」
「あ?なんでガキの部屋にいるんだよ。そんな守備範囲広かったのか壱華は!」
シリアスな雰囲気をぶち壊す、より近づいたその声。
ドスドスと本家に響く足音。
「壱華!」
……ああ、色々とタイミングが悪い。
私が凛と話をして憂雅くんが眠ってる最中に帰ってくるだなんて。
思わず「ごめんね」と凛にあらかじめ謝ってから数秒後、スパァン!と襖を開け、思った通り、我らが若頭が登場した。



