「誰が、お前の何に付き合うって?壱華」
「え……?」
「あっ……」
ところがそれは壁なんかではなく───
「志勇……?出かけたんじゃなかったの?」
「若……!」
突如現れた旦那様の、志勇のたくましい胸板だった。
「今から行くんだ。いってらっしゃいのキスがなかったのを思い出した」
「え?まさかそのためにわざわざ戻ってきたの?」
「違えよ、いらねえって思ってた資料が必要らしくて取りに帰ってきた。
さすがの俺でもキスひとつのために回帰するような壱華バカじゃねえ。なあ、凛太郎?」
「へっ!?あ、そうっすね……?」
資料を取りに帰らされたのに、なぜか気分のいいらしい志勇は凛に話を振る。
急に振られた凛は目を丸くしてとっさに頷いたはいいものの、慌てて変なところに疑問符がついてる。
そんなところがまた可愛いんだけどと口角を上げると、ふと志勇と目が合った。
「ん」
「ん?」
いってらっしゃいのキスがほしくて目線を合わせた志勇。
首をかしげると、分かってるくせに、とむすっとされた。
「……いってらっしゃいは?」
「はいはい、甘えん坊なパパですね」
「パパいうな」
相変わらずな志勇。
変わらない幸せな日常にありがたく思い、軽く唇を交わして私たちはそれぞれ本家を離れた。



