アニサキス事件から数日後、透は玲奈のもとで相変わらずこき使われていた。

「……ん?」

目を覚ますと、枕元に玲奈がいなかった。朝起きるのが苦手な透は、いつも玲奈に叩き起こされるのだが、今日はいない。

「宍戸?」

寝室を出てリビングに行くと、仕事に行く支度をしている美咲がいた。テーブルには透の朝ご飯が置かれている。

「透くん、おはよう!あたしはもう仕事に行くね」

「美咲さん、宍戸は?」

透が訊ねると、美咲は一瞬目を泳がせた。透が「美咲さん?」と訊ねると、美咲は慌てて口を開く。

「玲奈は、今日は用事で夕方まで戻らないって。だから動物の世話をお願い」

「……はい」

美咲が出て行き、透は朝ご飯を食べ始める。なぜ美咲が目を泳がせたのか、理解できなかった。何かを二人は隠している、そう透は考えた。

透はまだ、玲奈の隠していることを何も知らない。透が朝ご飯を食べている間、玲奈が裏路地の遺体を村田刑事と見ていることも。その遺体のそばに、「O」と書かれたカードが置かれていることも。