18話「知らないあなた」




 夜中の呼び鈴の後、スマホにメッセージをしてきたのは周だった。周は『吹雪さん、寝てる?今、家の前に来てるんだ』というものだった。返事をずっと待っていた吹雪は、サプライズの訪問に驚きながらも、彼に会える喜びが大きく、返事よりも玄関へ向かっていた。


 「吹雪さんに会いに来ましたー!」
 「わかった!わかったから、離して!周くん」


 ドアを開けた瞬間、上機嫌の周に抱きしめられたのだ。それは嬉しかったものの、彼の力は加減がなく苦しくなってしまい必死に抵抗していた。彼の胸を押しても、叩いてもダメだった。その時、彼からは珍しい甘い香りが漂ってきた。


 「周くん、もしかして酔っぱらってるでしょ?」
 「ホストの帰りなんですよー。少しお酒のみましたよー」
 「そんなに酔っぱらってるのに、少しじゃないでしょ?」
 「酔ってないですよー」


 にへらーと緩んだ表情で笑う周を見て、吹雪は苦笑してしまう。
 そして、当たり前だが彼はやはりホストクラブで働いているのだ。彼に抱きしめられると、華やかな香水の香りがした。彼のもののはずはないので、きっと周が対応したお客のもののはずだ。洋服に香水の香りが移ってしまうぐらいに近い距離いたのだろう。
 今の自分のように抱きしめていたのだろうか。
 そんな風に思うと、胸の奥が痛くなった。