16話「夢が覚める朝」






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 目の前で無防備に眠る彼女を、周はただ見つめていた。会ってすぐに自分から変わったお願いをしたというのに、吹雪はそれを引き受けてくれた。そして、信用してくれている。
 だからこそ、名前と年齢ぐらいしか知らない周を家にあげて、昔の話しをして泣いてくれて、そして一緒に寝てくれた。
 彼女は年上だけれど、純粋でいて少し子どもっぽさがあるなと周は感じていた。

 吹雪が話してくれた昔の淡い初恋でもあり、失恋の話。
 臆病な吹雪が、恋愛に対する不安を持つようになったきっかけの出来事だ。
 誰にでも人に騙されたり、嘘をつかれて傷ついた事もあるだろう。けれど、それが1番信頼していた人だったのだ。吹雪のショックは大きかっただろう。
 きっと、彼女はその時、一人で泣いたはずだ。そしてその後も思い出しては辛くなってしまったはずだ。悲しんでいなければ、昨日幼馴染みに会った時に、あんな悲痛な表情は見せていないだろう。


 「俺が守れたらよかったのに……」


 そう呟いて、すやすやと眠る彼女の頬に触れようと手を伸ばした。けれど、触れる寸前に指が止まった。

 吹雪を笑顔にしたいと思っているけれど、自分は彼女に何を隠している?
 自分が吹雪にしている事は何だというのだ。
 幼馴染みと変わらないのではないか。

 そう思うと、周の胸の奥がキリリと痛んだ。


 「俺も同じだ………こんな事を彼女にする資格なんてない……」


 周はそう小さく言葉を漏らすと、吹雪の香りがする布団に腕を引っ込めて、強く瞼を閉じた。


 けれど、しばらくの間、周が眠りにつくことは出来なかった。