「あー………前も話しただろ?あれは付き合ってるというか………近所付き合いみたいなもんだよ」
 「何だよ、それ」
 「意味わかんねー」
 「吹雪は幼馴染みで、地元では有名な総合病院の院長の娘なんだよ。だから、仲良くしとくべきだろ?本当の恋人ならミスコンで1位とった女子高生の先輩がいるし。あいつとはお遊びみたいなもんだよ」
 「……………そんな………」


 星の声が妙に耳の中で大きく反響している。
 彼の言葉が信じられずに、吹雪は頭がクラクラしている。
 別に恋人がいて、自分はただの遊び相手。しかも、星の目的は吹雪ではなく、吹雪の父親の地位なのだ。
 ガラガラと足元が崩れ落ちるのを感じた。
 その場からフラフラと歩いて廊下を過ぎる。後ろからはまだ、男子生徒の楽しそうな声が響いている。もちろん、星の声も。
 その声が逃げるように、階段を落ちそうになりながら歩く。そして、そのまま教室にも行かずに先ほどの校舎裏へと戻った。


 「……………そんなのってないよ…………」


 吹雪はその場に座り込み、次から次へと涙を流した。
 初めての好きな人との恋人の時間は、全て偽物だった。違う。幼馴染みだと思っていた星との関係も、いつの間にか彼にとっては、利用ふべき相手になっていたのだろう。

 それが悔しくて悲しくて、切なかった。
 心を許し、1番信用していたのは彼だった。
 それなのに、裏切られた。

 吹雪はこの日、恋人と幼馴染みを同時に失ったのだった。



 
 
 その日のうちに、吹雪は星に「別れたい」と伝えた。すると、吹雪の様子に何かを察したのか「ふーん………まぁ、いいけど」と、冷たい目で言われた。
 それからと言うもの、吹雪は星を避けるようになった。朝の登校時間を変え、教室でも話さないようにした。そして、今まで頑張ってきた友人関係も全てなかったかのように、一人で過ごすようになったのだ。


 人を信じるのは怖い。
 誰かを好きになるのが怖い。
 それの気持ちが吹雪の心に深く根付いてしまったのだった。