14話「嘘つき」




 付き合ったとしても、きっと何も変わらないだろうと吹雪は思っていた。
 けれど、星は本当の恋人のように接してくれた。帰りはこっそり手を繋いでみたり、部屋に招いて、吹雪を抱きしめてくれた事もあった。そして、吹雪の初めてのキスもしてくれた。
 吹雪はその甘い時間が嬉しくて、星と共に過ごす時間が増えるほどに彼をどんどん彼を好きになっていった。

 けれど、学校では2人はただの幼馴染みに戻っていた。星が「なんか今さら付き合ったなんて恥ずかしいから。茶化されるのがおちだし」と言ってお互いの友達には内緒にしていたのだ。
 だから、登校時に手を繋いでいても駅が近くなると星は手を離してしまっていた。吹雪はその瞬間がたまらなく嫌いだった。



 「星……」
 「ん?なんだ?」
 「もっと手繋ぎたい……」
 「なに甘えてんだよ。学校じゃ無理だって言っただろ」
 「………私は星と付き合ってるの言ってもいい」

 吹雪が自分の気持ちを素直に言えるのは、この時は星だけだったかもしれない。厳しい両親には言えるはずもなかったし、友達もそこまで仲がいい人はいなかった。居たのかもしれないけれど、吹雪が本当に気持ちを伝えたいと思えなかった。
 恋人であり、幼馴染みである星だけが、甘えられて、自分の思いを伝えてもいいと心を許した人だった。
 星を信頼しているからこそ、きっと「しょーがないな」と言って、学校でも手を繋いでくれるのだろうと、吹雪は思って手を伸ばして待っていた。

 けれど、その手を一瞥した星は、困った顔を見せた。その表情は想定外だったため、吹雪は顔が固まってしまう。