吹雪は、にっこりと微笑みながら会話をしていたが、内心ではとても緊張していた。光弥とはこの日が初対面なのだ。
 なかなか恋人が出来ない吹雪を見て、友人が光弥を紹介してくれたのだ。「私の会社の取引先の人なんだけど、この間一緒にランチした時の写真を見せたら、「吹雪の事を綺麗な人だね」って言ってたんだ。どうかな?」と、話を掛けてくれたのだ。
 あまり乗る気ではなかった吹雪だけれど、このままでは駄目だ、という気持ちもあったので断らずに受ける事にしたのだ。年齢もアラサーと呼ばれるようになったし、周りの友人や職場仲間も次々に恋人が出来たり、結婚したりしているので焦らないと言ったら嘘になる。
 それに、いつまでも昔の事を気にしては駄目だ。少し思い出すだけで、心の奥底がチクリと痛んだ。


 「吹雪さん……大丈夫?」
 「あ………ごめんなさい。少し酔ってしまったみまいで。ここのワイン、とても美味しいから」
 「大丈夫?無理しないで」
 「すみません………」


 吹雪はワインではなく水を飲んで、落ち着こうとグラスに手を伸ばした。すると、その手がグラスに触れる前に温かい感触に包まれてしまう。


 「え、あの………」
 「吹雪さん、俺は君と話をしてとても楽しかったんだ。吹雪さんは楽しんでくれた?」
 「え、えぇ………それは、もちろん」
 「ならよかった。俺として、もっと吹雪さんを知っていきたいんだけど、いいかな?」
 「それは、嬉しいです。ありがとうございます」


 優しくて、笑顔が素敵で、気配りも出来る。年上で落ち着いているのも魅力的だなと思う。だから、私も好きになったりするのだろうか。

 ………けれど、少しもドキドキしたり、これなら目の前の人と恋人になる未来を想像してしまう。けれど、何故か違和感を覚えてしまう。

 そんな風に思いつつ光弥を顔を見返すと、彼に熱を帯びた瞳で見つめられ、吹雪は思わず目を逸らしてしまった。今、彼と視線を合わせては駄目だ。女の勘がそう言っていた。