「俺と初めて会った日の事、聞きたい………。聞いていいいか迷ってたけど、やっぱり気になるから」
 「え………」
 「少し目が赤くなってたし、アイメイクも落ちてたから………何かあった?」


 まさか、出会った時の事を言われると思わず、吹雪は言葉に詰まってしまう。
 すると、彼は眉毛を下げて悲しげな表情で、吹雪の顔を覗き込んでくる。


 「えっと………大したことじゃない、から………」
 「目が赤くなるほど泣いたのに?俺に聞かせて。練習に協力してもらってるから、少しでも吹雪さんの役に立ちたい。それに、ホストはそういう話を話して、癒してあげるのも大切だと思うんだよね。だから、教えて………」
 「………そう、だね」


 どうしてだろうか。
 優しい言葉のはずなのに、少しだけ胸が痛むのは。
 周はきっと優しさから言っているとわかっているのに、吹雪は素直に喜べなかった。その理由に気づかないフリをしながら口を開いた。
 そんな風にモヤモヤとした気持ちが残っているはずなのに、彼に話したいと思ってしまう。
 吹雪にとって周は、やはりとても不思議な存在だった。

 
 「………楽しくない話だけどいいかな?」
 「いいよ。何があったの?」
 「友達の紹介で男の人と会ったの。とても紳士的で落ち着いてて感じのいい人だったよ。けど、実は婚約者が居て……その………愛人関係にならないかって言われたの。断ったら高級ディナーのお金取られちゃった………」
 「………そんな事があったんだ。辛かったね」
 「でも、それよりも………私はその人の事いいなって思ったわけでもないのに、付き合わなきゃ損だな、とか、これを逃したら結婚出来ないかもしれないって心の中で思ってた。昔みたいに、本当に好きになってからダメになるより、こういう人と結婚すればいいのかなって思っちゃったの………本当に最低でしょ?」