そう言うと麗は、吹雪の手を取ってズンズンと歩き始めてしまう。こうなると、彼女を止められないのは吹雪も知っている。けれど、彼女が自分の事を心配し気にしてくれているのは確かだった。本当の事を話そう。そして、周の事も。
吹雪はそんな事を考えながら彼女の後を追って歩いた。
麗が案内してくれたお店は、窓からけや木並木が見える少し古びたビルの3階にある紅茶のお店だった。木目調のアンティーク家具が並ぶ店内はとても落ち着いた雰囲気だった。夜という事もあり、他の客も少なく、窓際の席に座る事ができた。
2人はそれぞれ紅茶とケーキセットを頼むと、さっそく麗が口を開いた。
「で………ダメ男とは、どんな感じだったの?」
「………麗ちゃん……言い方……」
ダメ男とは、光弥の事だろう。
麗は目をつり上げながら聞いてくるので、吹雪は「麗ちゃん、落ち着いて聞いてね」と前置きした後に光弥との出来事も話した。
話しをしていく内に、麗の表情はどんどん険しくなっていき、吹雪がお金を渡して帰ったというところまで言うと、ダンッとテーブルを叩いて立ち上がった。
「何それっ!?最低っ!!」
「ちょ……麗ちゃん、しーっ!!」
落ち着いた店内に麗の怒声が響き渡り、吹雪は慌てて周りの客や店員に頭を下げて、何とか麗を座らせた。
「だから、私は大丈夫だから」
「そんな事ない。絶対に傷ついた。吹雪、泣いたでしょ?」
「…………少しだけ、ね」
「あいつ、次に会ったら張り手してやる」
「…………もし、麗ちゃんが会えたら、光弥さんの事止めて上げてね。婚約が嫌なら無理にする必要はないと思うし。………誰も幸せにならない結婚なんておかしいと思うから」