「実は俺、新人ホストなんだ。お金が必要で始めたんだけど……なかなか難しくてさ。指名をとれなかったり、お客さんを楽しませる事が出来てないみたいなんだ」
 「そう……なんだ……」


 ホストの世界が華やかなのは知っているが、それは一握りの売れている人だけなのかもしれない。それは、どんな世界でも同じなのだろう。
 けれど、目の前の彼は容姿は整っているし、話下手には見えないので、吹雪は不思議に思った。


 「実は、あまり女性慣れしてなくて。甘い言葉っていうのがよくわからないんだ。女の人が喜ぶってのが………」


 予想外の言葉に、吹雪は驚いてしまった。
 女性にモテそうな綺麗な顔と、人懐っこい話し方。それなのに、女性慣れしてないというのは驚きだった。黙って彼の顔をまじまじと見てしまっていると、男もそれに気づいたようで「ひかないでくださいね」と苦笑した。


 「いえ……私も恋愛経験ある方ではないのでひかないですよ………?」
 「そうなんですか?」
 「えぇ……。あ、あの!私の事はいいので。……私に出来る事なんて、何もないと思いますけど」
 「君は甘い事を求めてる。俺は甘い言葉を知りたい。丁度いいと関係になると思うんだ」
 

 ジッと吹雪の顔を見つめる。その視線はとても真剣で、瞳は少し潤んでいる。熱を感じられるそれに、吹雪はドキッとしてしまう。けれど、彼の綺麗な瞳から視線を逸らす事が出来なかった。


 「あ、あの関係ってどんな関係に……私は何をすれば………」
 「勉強させて欲しい」
 「べ、勉強?」
 「そう。お姉さんにしてもらいのは、俺の言葉を聞いて欲しい。態度や仕草や行動を見て、お姉さん自身がドキドキしたか、それともしなかったのか。それを教えて欲しいんだ」


 想像もしなかった内容に、吹雪はまた目を大きくさせた。目の前の彼は自分を驚かせてばかりだなと思いながらも、彼の提案に何の返事も出来ずにいた。

 ホストの接客の練習台。
 目の前の男に、甘い言葉を囁かれたり、イチャイチャした事をされたりするのだ。確かに甘い事をしたいとは思っていたものの、吹雪はそれを想像すると一気に恥ずかしくなってしまった。
 けれど、彼の提案は悪いものではないよう気がしてしまった。
 甘い言葉の練習相手。

 自分はホストに偽りの愛情を求めていた。
 甘い言葉で、一時の幸せを感じたかった。
 彼は、女性が喜ぶ言葉や行動を知りたいのだ。
 確かに、お互いに求めているものが合っていた。だからこそ、妙に惹かれてしまう提案なのかもしれない。