26話「甘い余韻」





 「本当に………そんな風に思ってくれてだ……」
 「うん。でも、その当時は俺はまだ大学生だったし、吹雪さんは社会人だったから。声を掛ける自信がなかったんだ」
 「そんな事、気にしなくていいのに。むしろ、私の方が年上だから気にしてたのに」
 「年上とか年下なんて関係ない、今ならそう思えるんだけど。でも、カッコ悪いと思ってたから」


 周は吹雪を抱きしめていた手で、吹雪の両頬を包んだ。吐息が感じられるほどの距離で吹雪を見つめた。その視線もそして口調も全てが優しく、愛に満ちていて吹雪は幸せで胸が苦しくなってしまった。


 「その時、俺はギャラリーをすれば一人前になれる。社会人と同じように見えてもらえるはずだって、バカな事を思ってて……でも、お金がないから、先輩の柴田さんに相談したんだ。そしたら、冗談で「彼女でも出来たらお祝いにギャラリー開く資金を少し手伝うぞ。おまえの作品は俺も好きだからな」なんて、言われたんだ。もちろん。俺は本気にしてなかったけど、柴田さんは本気にしてたみたいで。そんな話しを聞いたら不安になるよね。本当にごめん。でも、俺はそんなつもり全くなかったんだ。ギャラリーをするなら自分でやりたかったんだ。柴田さんのギャラリーに連れていったのは、吹雪さんが好きな世界観だろうなって思ったからで………」
 「うん。わかった………信じるよ」
 「………吹雪さん、ありがとう」


 彼の話しを聞くと自然と不安が消えていた。
 周が話した事は本当なのだろう。彼の表情を見ていれば、それがよく伝わってきた。