選択肢など残されていなかった。

僕達は痛む体に鞭を打ち、コンテナの山からなるべく急いで降りた。

一歩ごとに全身に激痛が走る。だけど今は休んでいる暇などない。

ラプラスのおかげで一命を取り止めたとはいえ、『ソロモン・リング』を使う体力などとても残っていない。もしラプラスの予知通りここを包囲されれば今度こそお終いだ。

二人で肩を組みながら工場の外へ向かう途中、僕はあることに気付いて思わず息を呑んだ。

さっき倒した五月雨がいなくなっている。

急所は外したので死んではいないと思うけど、救助もまだ来ていないはずだ。だとしたら一体五月雨はどこに――

ガチャ!

その時、工場のシャッターが開いて眩い光に照らされ、僕達は思わず顔を覆った。

目の前に広がるのは――触手をひしめかせる無数の歌姫と車のライトをバックに銃を構えた戦闘員たち。

――間に合わなかった。

絶望的な光景を前に、僕は遂にその場で膝をついた。

「夕立始とラプラス・システム! 『代行者委員会』の任によりお前たちを確保する!」



拡声器の声が響き渡る中、ラプラスはそっと座り込んで僕を抱きしめる。

一瞬の抱擁の後、離れて顔を上げると――ラプラスは、今まで一番幸せそうな表情を浮かべていた。

「君のそんな笑顔を――こんなところで見たくなかった」



ラプラスは、笑顔を崩すことなく答える。

「そんなこと言わないで。私は充分に幸せだよ。だって――」



「例え『正しい』形じゃなくても――好きな人と一緒に消えることが出来るのだか
ら」



それが一人の女の子からの初めての告白だと気づいた時には、僕達は切り離されていた。

それぞれ戦闘服の男に腕を掴まれ、二人は遠ざかっていく。

もう二度と会えない、その感情が遂に爆発して僕は彼女に手を伸ばしながら叫ぶ。

「やめろ! 放してよ! もうたくさんだ! 何が『システム』だ、何が『神様』だ! 本当にラプラスがそうなのだとしたら、悪魔のお前たちに触れていい権利なんてあるわけ――」



「――そうだな。悪魔は交わした契約は必ず守る生き物だ」