そよ風に乗って甘酸っぱい芳香が漂ってくる。
目を覚ますと、僕は広大なブドウ畑の真ん中に倒れていた。
隣の小さな木に実っている大きなブドウの房を見て、僕はここが日本でないことを直感する。
「とても良い景色でしょ? 思わずお昼寝してしまいたくなるくらい」
足元から聞き覚えのある声がした。
身を起こすと、いつもの白いワンピース姿に青いリボン姿のラプラスがしゃがみ込んで僕を見つめていた。
「ラプラス……じゃなくて、アリス?」
「ラプラスでいいよ。さっき本名を呼ばせたのは、貴方をここに連れてくる為だから」
「ってことは、やっぱりここはラプラスの故郷?」
彼女は立ち上がって、静かに笑うだけだった。
僕も立ち上がり、興味津々に辺りを見渡しながら問う。
「どうしてそんな悲しそうな顔をするの? とても素敵な場所じゃないか。こんなに綺麗で広大なブドウ畑、日本じゃ見たことがない」
「うん、そうだね」
その時、ラプラスの後方にある木の小屋から小さな女の子が出てくるのが見えた。
腰元まで伸びた銀髪にサファイアの様な瞳……ラプラスをそのまま小さくしたかの様な幼い少女。
「ラプラス、あの子もしかして……」
僕が言い終えるより早く少女はこちらに気づくと、ブドウの木の合間を縫って駆け寄って来た。
「ねえねえおねえさんたち! ここで何してるの? 私と一緒に遊ぼうよ!」
少女は無邪気に笑いながらラプラスの腰元にギュッと抱きついた。
そのまま服を引っ張ってきたが、ラプラスは無表情のまま動かない。
「ねえ遊ぼうよー! 私のことが見えないの?」
すると今度は、小屋から少女の母親らしき女性が出てきてこちらに向かいながら叫ぶ。
「こら、ラプ! ダメでしょ、知らない人に近づいたら」
「だってたまにはお父さんとお母さん以外の人と遊びたかったんだもん! 悪魔が出る、とか言ってこの近くには誰も近寄らないし!」
泣きそうな表情を浮かべる少女の頭を撫でて、母親は諭す様に言う。
「大丈夫よ、悪魔なんてどこにもいないわ」
「でも私知ってるの。みんなが裏で私のことを何て言ってるか」
「みんなが何と言おうと、アリスは私の可愛いアリスよ。もし貴方の身に何か起きた
ら、私が絶対に守る。約束するわ」
ギリッ、と目の前のラプラスが拳を固く握り締めた。
ベキベキッ! と音を立てて彼女を中心にブドウ畑に無数の亀裂が走る。
しかし、母親はそんなことはお構いなしに少女を優しく抱きしめた。
激しい音を立てて更に亀裂が広がる。あまりの激しさに思わず僕が思わず耳を塞ぎかけた時、少女は母親の胸の中で幸せそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうお母さん……ううん、私の天使様」
途端、亀裂の音はばったりと止んだ。
僕が少女からラプラスに視線を移すと――彼女の瞳は、大粒の涙で光っていた。
「さあ、もうすぐ暗くなるわ。お家に帰りましょう」
「うん!」
その時、母親に手を繋がれて戻っていく少女を咄嗟に振り返ってラプラスが叫ぶ。
「待って! 行ってはダメ! 行かないで……お願い……!」
そんな叫びも虚しく、無情にも小屋のドアが閉まると同時に彼女は崩れ落ちる。
「ねえお母さん。どうして私を一人にしたの……?」
「どうせ消してしまうなら――いっそのこと本当に私を消して欲しかった」
目を覚ますと、僕は広大なブドウ畑の真ん中に倒れていた。
隣の小さな木に実っている大きなブドウの房を見て、僕はここが日本でないことを直感する。
「とても良い景色でしょ? 思わずお昼寝してしまいたくなるくらい」
足元から聞き覚えのある声がした。
身を起こすと、いつもの白いワンピース姿に青いリボン姿のラプラスがしゃがみ込んで僕を見つめていた。
「ラプラス……じゃなくて、アリス?」
「ラプラスでいいよ。さっき本名を呼ばせたのは、貴方をここに連れてくる為だから」
「ってことは、やっぱりここはラプラスの故郷?」
彼女は立ち上がって、静かに笑うだけだった。
僕も立ち上がり、興味津々に辺りを見渡しながら問う。
「どうしてそんな悲しそうな顔をするの? とても素敵な場所じゃないか。こんなに綺麗で広大なブドウ畑、日本じゃ見たことがない」
「うん、そうだね」
その時、ラプラスの後方にある木の小屋から小さな女の子が出てくるのが見えた。
腰元まで伸びた銀髪にサファイアの様な瞳……ラプラスをそのまま小さくしたかの様な幼い少女。
「ラプラス、あの子もしかして……」
僕が言い終えるより早く少女はこちらに気づくと、ブドウの木の合間を縫って駆け寄って来た。
「ねえねえおねえさんたち! ここで何してるの? 私と一緒に遊ぼうよ!」
少女は無邪気に笑いながらラプラスの腰元にギュッと抱きついた。
そのまま服を引っ張ってきたが、ラプラスは無表情のまま動かない。
「ねえ遊ぼうよー! 私のことが見えないの?」
すると今度は、小屋から少女の母親らしき女性が出てきてこちらに向かいながら叫ぶ。
「こら、ラプ! ダメでしょ、知らない人に近づいたら」
「だってたまにはお父さんとお母さん以外の人と遊びたかったんだもん! 悪魔が出る、とか言ってこの近くには誰も近寄らないし!」
泣きそうな表情を浮かべる少女の頭を撫でて、母親は諭す様に言う。
「大丈夫よ、悪魔なんてどこにもいないわ」
「でも私知ってるの。みんなが裏で私のことを何て言ってるか」
「みんなが何と言おうと、アリスは私の可愛いアリスよ。もし貴方の身に何か起きた
ら、私が絶対に守る。約束するわ」
ギリッ、と目の前のラプラスが拳を固く握り締めた。
ベキベキッ! と音を立てて彼女を中心にブドウ畑に無数の亀裂が走る。
しかし、母親はそんなことはお構いなしに少女を優しく抱きしめた。
激しい音を立てて更に亀裂が広がる。あまりの激しさに思わず僕が思わず耳を塞ぎかけた時、少女は母親の胸の中で幸せそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうお母さん……ううん、私の天使様」
途端、亀裂の音はばったりと止んだ。
僕が少女からラプラスに視線を移すと――彼女の瞳は、大粒の涙で光っていた。
「さあ、もうすぐ暗くなるわ。お家に帰りましょう」
「うん!」
その時、母親に手を繋がれて戻っていく少女を咄嗟に振り返ってラプラスが叫ぶ。
「待って! 行ってはダメ! 行かないで……お願い……!」
そんな叫びも虚しく、無情にも小屋のドアが閉まると同時に彼女は崩れ落ちる。
「ねえお母さん。どうして私を一人にしたの……?」
「どうせ消してしまうなら――いっそのこと本当に私を消して欲しかった」