「ああ……穏やかな雨に打たれているみたいで……とてもいい気分だよ」



頭上を見上げながら五月雨は呟いた。

同時に水にさらされた僕の手からもブレードが消え、その先にはぽっかりと穴の開いた五月雨の胸だけが残る。

「プラズマは電気の磁場を起点にして生成される……だから水分子で磁場を阻害してしまえばプラズマは消え一切の攻撃を無力化出来る」



水の滴る前髪越しに五月雨はこちらを見降ろして、そして僕の頭を撫でた。

「しかも俺が死なない様に心臓を外してくれた。始君、俺は超越されるどころか君に救われてしまったね」

僕は彼の手を振り払い、後ずさった。

「気持ち悪い真似はやめてよ。僕はただ人殺しになりたくなかっただけだ」

「俺がラプの姉と時雨鏡花の仇だとしても?」



その言葉に、一瞬迷いを覚える。

確かに彼はラプラスのお姉さんと、そして時雨さんを殺した憎い敵だ。

それでも、僕は。

「僕は『殺す』という手段で誰かが『消える』ことは望まない――そんな間違った消え方は認めない」



僕が断言すると、五月雨は満足したように目を閉じた。

「そうか……もしかしたら本当に君ならラプを、或いは――」



再び開かれた瞳は、見たこともないような優しい目をしていた。

「ラプがどこにいるのか、聞かないのかい?」

「もう知っている。さっきの思考加速状態で気づいた……もっと早く気付くべきだった」

「そうだね……もっと早く気付けたはずだよね」



そしてドサッ、と五月雨は後ろ向きに倒れ、右手で頭上を指さしながらか細く告げた。



「早く行ってあげなよ。『神様』はいつだって一人ぼっちで高い場所にいるものだ」