ドンッ! と。
苛烈な青の稲光と共にプラズマが集中していく。
それは徐々に刀身の形を成していき、そして風と光が収まった時には僕は五月雨と同様、一振りのプラズマブレードを手にしていた。
時雨さんを助けられなかった……約束を果たせなかった……
その悔しさが、怒りが、悲しみが、これまでにないほど強い結束となって時と共により強靭なブレードを形成していく。
「フフ、君は何度僕の期待を超えれば気が済むんだい」
彼は心からの愉悦と賛辞を込めて言った。
「ラプラスと感覚共有していたとは言え、初めてでこれほど見事な刀身を産み出せる『指輪使い』は見たことがない。君はアリア以来の逸材かもしれないね」
「アリア? 誰のことだ?」
質問に答えず、五月雨は素早くラプラスの後ろに回り込んで手刀を振り下ろした。
ラプラスの体から力が抜け、彼はそっとそれを地面に横たえる。
五月雨がラプラスに危害を加える可能性はゼロだ、焦ることはない……僕は静かに刃を構えると真っすぐにそれを五月雨へと向けた。
思った以上に固くて重い。
『ソロモン・リング』の反動で体はとっくに限界を超えている。
おまけに相手はラプラスの姉を殺し、五十体の歌姫をも一人で討伐した『天使』だ。
「最後に聞かせてくれ、始君」
それでも僕は。
「どうして君はそこまでして戦うんだい?」
僕は五月雨に向かって走りながら叫んだ。
「お前という障害物を超えて、ラプラスと一緒に『消える』為だ!」
五月雨の刃が僕の刃を受け止め、激しく火花を散らして拮抗する。
その青白い光に照らされた五月雨は、少し驚きの表情を浮かべていた。
「消える? 死ぬわけでも逃げるわけでもなく……消える? 一体どういう意味だい?」
「当たり前のあるべき世界へ消えるということだ! ラプラスにはその権利がある! お前たちがずっと彼女から奪い続けてきた権利が!」
「何を言うかと思えば……随分と大層で浅はかな行動原理だね。万物の神である彼女は君の言う『消える』という願望からは最もかけ離れた存在だ。そんな彼女を俗世へ返そうだなんて理解しかねるね」
「お前には分からない。お前なんかには一生分からない!」
ガツン! とありったけの力で刃を叩きつける。
だが、五月雨の細い腕はビクともしない。それどころか、余裕の笑みを浮かべて僕の手を押し返してくる。
「君は少し傲慢過ぎるよ、始君」
刃越しに僕を見つめながら、言い聞かせるように囁く。
「一介の『天使』如きに神を消すことなど出来ない。現にアリアもラプラスを救えなかった。仮にここで俺を殺してもラプラスの力は世界中が渇望している。最初から君の願望は叶うはずがないのだよ!」
「だったら僕が守る! ラプラスを利用しようとする奴は全て倒す!」
「やってみるといい」
言うが早いか、五月雨は僕の刃を思いきり弾き飛ばした。
僕は反応も出来ぬまま宙を飛び、反対側の工場の壁に叩きつけられる。
血を吐きながら立ち上がると、五月雨が気絶したラプラスを抱えて工場の屋根に立っているのが見えた。
五月雨は一瞬こちらに視線を向けてから屋根を踏み砕き、屋内へと入っていく。
「待て!」
痛む体を起こしながら叫んで僕は後を追った。
あの会話の最中五月雨はいつでも僕を押し返せた。その気になれば殺すことだって出来たかもしれない。
本来なら、ラプラスを人質にして僕に追わせる必要もないはずなのだ。
「アイツ……どこまで僕たちを弄ぶつもりなんだ……?」
果たして……僕が工場内に入ると、一番高いコンテナの上で五月雨は悠然と待っていた。
鷹揚とした佇まいでこちらを見下ろす彼の近くにラプラスの姿は無い。
「彼女はどこだ!」
「この工場のどこかに隠したよ」
彼は蛇の様に細い舌で舌なめずりをして答えた。
「まあそう焦らないでくれ。せっかくだし俺とゲームでもしようじゃないか」
「どうせそんなことだろうと思ってたよ」
「もし君が勝ったら、始君とラプラスは自由にしてあげよう。この俺の名に誓って約束する。だけどもし負けたらラプラスを再び機械に繋ぎ止め――君は殺す」
発せられた本気の殺意に、僕は思わず身をすくめる。
「僕を殺したらまずいんじゃなかったの?」
「気が変わったのさ。このゲームで俺は君を殺すつもりで戦うことにした。例え委員会に処罰されようと、君にはそれだけの価値がある」
「……僕の勝利条件は?」
「俺に殺される前にラプを見つけだすことだ。俺に殺されない限りは思う存分探して構わない。ただし、工場の外に出た場合は君の敗北と見なしやはり殺す」
「分かった」
僕は慎重に答えながら冷静に考えをまとめる。
さっきは無謀にも突っ込んでしまったが、五月雨との戦力差は天と地ほどの開きがある。正面から戦えば必ず殺される。
だけどこのルールなら五月雨を殺す必要がない。
幸いこの工場の内部構造はさっき把握したし、奴の追撃をかわしつつラプラスを探すことさえ出来れば――
「ねえ、もうゲームは始まってるよ?」
苛烈な青の稲光と共にプラズマが集中していく。
それは徐々に刀身の形を成していき、そして風と光が収まった時には僕は五月雨と同様、一振りのプラズマブレードを手にしていた。
時雨さんを助けられなかった……約束を果たせなかった……
その悔しさが、怒りが、悲しみが、これまでにないほど強い結束となって時と共により強靭なブレードを形成していく。
「フフ、君は何度僕の期待を超えれば気が済むんだい」
彼は心からの愉悦と賛辞を込めて言った。
「ラプラスと感覚共有していたとは言え、初めてでこれほど見事な刀身を産み出せる『指輪使い』は見たことがない。君はアリア以来の逸材かもしれないね」
「アリア? 誰のことだ?」
質問に答えず、五月雨は素早くラプラスの後ろに回り込んで手刀を振り下ろした。
ラプラスの体から力が抜け、彼はそっとそれを地面に横たえる。
五月雨がラプラスに危害を加える可能性はゼロだ、焦ることはない……僕は静かに刃を構えると真っすぐにそれを五月雨へと向けた。
思った以上に固くて重い。
『ソロモン・リング』の反動で体はとっくに限界を超えている。
おまけに相手はラプラスの姉を殺し、五十体の歌姫をも一人で討伐した『天使』だ。
「最後に聞かせてくれ、始君」
それでも僕は。
「どうして君はそこまでして戦うんだい?」
僕は五月雨に向かって走りながら叫んだ。
「お前という障害物を超えて、ラプラスと一緒に『消える』為だ!」
五月雨の刃が僕の刃を受け止め、激しく火花を散らして拮抗する。
その青白い光に照らされた五月雨は、少し驚きの表情を浮かべていた。
「消える? 死ぬわけでも逃げるわけでもなく……消える? 一体どういう意味だい?」
「当たり前のあるべき世界へ消えるということだ! ラプラスにはその権利がある! お前たちがずっと彼女から奪い続けてきた権利が!」
「何を言うかと思えば……随分と大層で浅はかな行動原理だね。万物の神である彼女は君の言う『消える』という願望からは最もかけ離れた存在だ。そんな彼女を俗世へ返そうだなんて理解しかねるね」
「お前には分からない。お前なんかには一生分からない!」
ガツン! とありったけの力で刃を叩きつける。
だが、五月雨の細い腕はビクともしない。それどころか、余裕の笑みを浮かべて僕の手を押し返してくる。
「君は少し傲慢過ぎるよ、始君」
刃越しに僕を見つめながら、言い聞かせるように囁く。
「一介の『天使』如きに神を消すことなど出来ない。現にアリアもラプラスを救えなかった。仮にここで俺を殺してもラプラスの力は世界中が渇望している。最初から君の願望は叶うはずがないのだよ!」
「だったら僕が守る! ラプラスを利用しようとする奴は全て倒す!」
「やってみるといい」
言うが早いか、五月雨は僕の刃を思いきり弾き飛ばした。
僕は反応も出来ぬまま宙を飛び、反対側の工場の壁に叩きつけられる。
血を吐きながら立ち上がると、五月雨が気絶したラプラスを抱えて工場の屋根に立っているのが見えた。
五月雨は一瞬こちらに視線を向けてから屋根を踏み砕き、屋内へと入っていく。
「待て!」
痛む体を起こしながら叫んで僕は後を追った。
あの会話の最中五月雨はいつでも僕を押し返せた。その気になれば殺すことだって出来たかもしれない。
本来なら、ラプラスを人質にして僕に追わせる必要もないはずなのだ。
「アイツ……どこまで僕たちを弄ぶつもりなんだ……?」
果たして……僕が工場内に入ると、一番高いコンテナの上で五月雨は悠然と待っていた。
鷹揚とした佇まいでこちらを見下ろす彼の近くにラプラスの姿は無い。
「彼女はどこだ!」
「この工場のどこかに隠したよ」
彼は蛇の様に細い舌で舌なめずりをして答えた。
「まあそう焦らないでくれ。せっかくだし俺とゲームでもしようじゃないか」
「どうせそんなことだろうと思ってたよ」
「もし君が勝ったら、始君とラプラスは自由にしてあげよう。この俺の名に誓って約束する。だけどもし負けたらラプラスを再び機械に繋ぎ止め――君は殺す」
発せられた本気の殺意に、僕は思わず身をすくめる。
「僕を殺したらまずいんじゃなかったの?」
「気が変わったのさ。このゲームで俺は君を殺すつもりで戦うことにした。例え委員会に処罰されようと、君にはそれだけの価値がある」
「……僕の勝利条件は?」
「俺に殺される前にラプを見つけだすことだ。俺に殺されない限りは思う存分探して構わない。ただし、工場の外に出た場合は君の敗北と見なしやはり殺す」
「分かった」
僕は慎重に答えながら冷静に考えをまとめる。
さっきは無謀にも突っ込んでしまったが、五月雨との戦力差は天と地ほどの開きがある。正面から戦えば必ず殺される。
だけどこのルールなら五月雨を殺す必要がない。
幸いこの工場の内部構造はさっき把握したし、奴の追撃をかわしつつラプラスを探すことさえ出来れば――
「ねえ、もうゲームは始まってるよ?」