ザシュッ!

空から降ってきた人影が歌姫へ青い刃を振り下ろし――全身真っ二つになったそれを踏みつけながら五月雨が優美に髪をかき上げた。

「五月雨……!」



僕は彼を前にして息を呑み、思考を総動員する。

どうすればいい? 一応この状況はまだ『歌姫の暴走』に過ぎなくて、五月雨が停戦協定を破っていない可能性もある。

だが、ここに現れたということはもう五月雨は『堕天使陣営』制御下の歌姫を制圧し終えたということだ。だとしたらやはり彼は僕とラプラスを拘束しに――

「そんなに難しい顔して考えなくていいよ、始君。実にシンプルだ」



そう言って、五月雨は指をパチンと鳴らした。

「歌姫どもと首謀者は抹殺した。全て俺一人で。だから君たちを迎えに来た」

「ひ、一人で⁉ あの数を⁉」

「そうさ、俺一人で事態を収拾させたんだ。だから君たちを追って来た。どうだい、ちゃんと先ほどの約束は守っただろう?」



そう言って悦に浸る五月雨に怒りを覚える。

僕たちを万が一にも逃がさない様、約束を破り歌姫を差し向けておいてよくも――

「ところでこの体たらくはなんだい? 『神様』を守りながら歌姫五体すらまともに倒せないとは――」



その時、僕は不意に今の会話に違和感を感じた。

「――待って。さっきなんて言った?」



会話を遮られ、五月雨は不快そうに眉を吊り上げる。

「ん? さっきとはどの話だい? ああ、君たちとの約束を守ったという下りか。確かにそれは語弊があるね、歌姫を追わせたのは協定違反だ。だけどただ逃がすだけじゃ興が乗らないし、これくらいは許容範囲ということで――」

「そうじゃなくてその前だよ」



更に遮り、僕は一歩前に進み出た。



「『誰と誰を抹殺した』――だって?」



僕の眼光を受けて五月雨は表情を消し――身の毛もよだつ様な恍惚とした笑みを浮かべた。

「ああ、いいねゾクゾクするよ……そうだ、その目だよ始君」



「君のその目も、いつかは時雨鏡花の様に色を失くしてしまうのが惜しいくらいだ」