突然予知が使えなくなってしまったラプラスを連れ、僕は工場地帯をやみくもに駆け抜けた。

こうなることは予期しておくべきだった。

『システム』の支配権を握っているのはあくまで『代行者陣営』なのだ。

その気になればいつでも『ラプラス・システム』とラプラス本体の連結を解除し、彼女から予知能力を奪うことは出来た。

五月雨が今までそうしなかったのは僕たちを逃がさない為だろう。

ラプラスの能力を戦いと同時にすぐ奪えば、僕達は時雨さんの説得を諦めて二人で逃走する可能性があった。

しかし時雨さんを救出出来なくなった今、ラプラスと『システム』を繋いでおく必要はない。

後は慌てて逃げ出す僕らを適当な歌姫で足止めし、五月雨が追い付いたらその時点でゲームオーバー。

くそ……こんな所を走っている場合じゃないのに。

一応五月雨は時雨さんを殺さないと約束したものの、それは彼女からハッカーの居場所を聞き出す為だ。

用済みとなって排除される前に時雨さんを助けに戻る必要がある。

だが今は自分の身を守るのに精一杯という体たらくだ。僕がもっとしっかりしていれ
ば……!

その時――頭上から降り注いできた歌姫たちを前にして、僕達は立ち止まった。

「始君……」

「ああ、分かってるよ神様」

もう一度『ソロモン・リング』を起動し、僕は迷いを振り払って告げる。



「無茶はしないさ。僕にはやるべきことがまだまだたくさん残ってるんだ!」