「ラプラス。そろそろ行こうか」

「うん」



彼女が頷き、僕達は連れ立って外に出る。

外は心地よい夜風が吹いていて、街の明かりがイルミネーションの如く豪奢に辺りを照らし出す。

ラプラスは目を輝かせてそれを見ていたが、急に少し寂しそうな表情を浮かべた。

「どうしてだろう……今の私、何だか凄く変な気分」

「どうして?」



彼女は街並みを背景に制服のリボンと髪をなびかせながら振り返る。

「ユグド・タワーから見上げる夜空の星はとても美しかったけど、下界の風景は見えなかった。そしてこの街の景色はとても美しいけど、代わりに夜空の満点の星々は見えない」

「神様でも叶えられないことがある……ってことか」

「いつだってそうだったよ。人も、神様も、何かを代償にしなくては何かを得ることは出来ない……かつての私の両親も」

「え? 今なんて言ったの?」

「ううん……何でもないよ」



何やら感傷に浸っている彼女の肩を、僕は軽く叩いた。

「少し歩こう。暗いことばかり考えていたらせっかくのデートが台無しだよ」

「うん……そうだね」



躊躇いがちに、彼女は僕の後を付いてくる。

彼女のペースがあまりにゆっくりなので、僕は仕方なしにスピードを落として横に並んだ。

「ねえ、ラプラス」

「なあに?」

「君の本当の名前を教えてくれない? もしかしたら本当に……これが最後になるかもしれないからさ」



歩きながら勇気を振り絞って尋ねると――彼女は僕をしばらく見つめ、そして急に笑い出した。

「な、何だよ! 今の笑う場面じゃないでしょ⁉」

「ごめんごめん……! 確かに笑う所じゃないよね。始君が気付くはずもないし」

「気付く? 何のこと?」



僕は聞き返したが、彼女は何も答えずにただ黙って微笑むだけだった。何だろう……凄く気になる……

それ以上考えても仕方なかったので、僕は思考を放棄して黙って歩いた。

こういう時、メイだったら『野暮な質問なんかしてないで雰囲気を楽しみなさい』とでも言うだろう。だったらその通りにしよう。



どのみち、この何物にも代えがたい時間はもう終わりを告げるのだから。