翌朝。

目を覚ますといつの間にかホールの真ん中には瀟洒で巨大な丸テーブルが置かれていた。

「おはよう、少年。銀髪碧眼美少女との添い寝は満喫出来たかい?」



テーブルにいそいそと料理を並べている五月雨に言われて横を見ると、ラプラスが僕の肩に顔を預けてスヤスヤと寝息を立てている。

「うわっ⁉ な、なんで――」

「しっ、静かに。支度が出来るまで寝させてあげてくれ。彼女はこう見えて寂しがり屋なんだ」



五月雨は切れ長の瞳をウインクさせる。

「昨晩はお楽しみだったようだね」

「……どうせ別室で全部聞いてたんだろ。改めて言うけど、僕は時雨さんを殺す気はない」

「その件はとりあえず保留にしておこう。時間があるわけじゃないけど、君は俺にまだ懐いてるとは言い難いからね」

「僕は一生アンタの言いなりになるつもりはないよ」

「結構。その方が調教しがいがある」



その時、僕と五月雨の言い合いのせいかラプラスが小さく呻き声を上げて目を覚ます。

「うんんっ……おはよう、二人とも」

「おはようラプ。昨夜はお客さんのおかげで良く寝れたみたいだね」



そこでようやくラプラスは僕に寄り添っていたことに気付き、顔を赤くした。

「だ、だって……この場所で終以外の人が来ることなんて滅多にないから……! それに昨晩は珍しく『スキャニング』がない日だったし」

「『スキャニング』?」

「あの椅子型の装置で、彼女の脳から未来の情報を抽出することさ。ラプは基本的に一日十二時間はあそこに座りっぱなしで脳波を読み取られている。俺はそんな彼女の世話係も兼ねているんだ」



五月雨は、僕が初めてラプラスと会った時に座っていた機械仕掛けの椅子を指さした。

「十二時間って……! そんなに長い間脳を酷使されたら……!」

「まあまあ、ちゃんと神様の健康にも気を使っているさ。とりあえず準備が出来たから、二人とも座ってよ」



五月雨にいなされ、僕は仕方なく立ち上がりラプラスもその後に続く。

真っ白なテーブルには磨き上げられた銀の食器が並び、そこには色とりどりの料理が盛り付けれらている。

丸い皿の中には、焦げない程度にカリカリに焼かれたバゲットの輪切り。

その脇に添えられているのは、ココットに入ったイチゴジャムと牛のリエット。

円柱の高い食器の頂には半熟の卵が載せられ、その足元にはニンジンや鶏肉、ジャガイモなどが入ったクリームシチューが湯気を上げている。

グラスに入っているのはワインに見えたが、テーブルの中央にブルゴーニュ産のブドウジュースのボトルがあることに気付いた。

「こう見えて全部俺が作ったんだ」



手際よくナイフとフォークとスプーンを並べて言う五月雨。



「まあ……健康管理に気を使っているのは嘘じゃないね」