一瞬の沈黙が流れた。

ラプラスが驚いた表情で僕を見つめ、五月雨は満面の笑みを浮かべた。

「やっぱりいいね。いつだって君は俺の期待を裏切ってくれる。でも残念ながら彼女はこの国、いや世界トップレベルの最高機密なんだ。悪いがいくら君の要望でも応えられない」

「僕が何でも言う通りにすると言っても?」

「何でも、ね……」



五月雨は蛇の様な目つきで僕の体をじっくり眺めまわした後、顔を近づけた。

「例えそれがどんなに辛く苦しくて理不尽なことでも?」

「ああそうだ」



僕は逸らすことなく五月雨の濁った瞳を見返す。

「僕はラプラスのおかげで今生きている。だから例え命を差し出すことになっても惜しくない」

「もうやめて!」



堪えきれなくなってラプラスが叫ぶ。

「どうしてそこまで……私は別に、貴方には何も……」

「人はね、気づかない内に誰かを救ってることだってあるんだよ」



僕はそう言って微笑むと、ラプラスは怒った様子で頬を膨らませた。

「私……貴方のそういうところキライ」

「どういうところ?」

「もう知りません! 貴方が何と言おうと私はそんなの受け入れませんから!」

「この間あの人気のカフェで食べたクリームあんみつパフェ、美味しかったなぁ……」



僕が何気なく呟くと、強情な目つきをしていたラプラスの瞳に☆が浮かんだ。

「クリームあんみつ……パフェ⁉ パフェとはあの、素敵が全部詰まった夢のスイーツですよね⁉ それのクリームあんみつバージョンが⁉」

「うん」

「それを食べさせる為に私を?」

「そのつもりだよ」

「貴方が神ですか」

「いや神は君だろ」



彼女はもう話を聞いていない。

青い瞳に満点の星を浮かべながらヨダレを零す様は、どう見てもこの国の最高機密には見えない。

その様子を見て、五月雨はやれやれとため息を吐く。

「ラプは基本的にはいい子なんだけど、昔から満たされなかったせいでたまにこうして幼児退行してしまうんだ。俺が何とか心の隙間を埋めようと努力はしてきたんだけど」

「残念だったね。お前じゃクリームあんみつパフェにも劣るらしいよ」



僕が挑発的に告げると、五月雨はわざとらしく悲しそうな顔をした。

「分かった、俺の負けだ。俺だって本当はラプに幸せになって欲しい。だから交換条件を受け入れよう」

「本当に約束してくれるのか?」

「約束を破ればラプがパフェ目当てに脱走しかねないからね。その点は安心してくれていい」



彼はゾッとする様なおぞましい笑みと共に言った。

「君がちゃんと約束を守れるなら、の話だけどね」

「さっきも言っただろ。僕は彼女の為なら何でもする」

「よし分かった。今から君は俺の奴隷だ」



五月雨は舌なめずりすると、僕の頭を掴んで嬉しそうに言った。



「では主人として君に命ずる――時雨鏡花を暗殺しろ」