「死ななきゃ……いけない?」

「あの子がこの数日『必然的な事故』に見舞われていることと、貴方とは何の関係もないの。私は出会ったばかりの人間の為に、いじめの首謀者を粛清する程聖人でも暇人でもありません」



そう言われてしまうと、僕も何も言い返せなかった。現にメイにも全く同じことを指摘されていたからだ。

「時雨鏡花の抹殺は四日前、私の能力を管理する『代行者委員会』が定めたことです。予測によると時雨鏡花は十年後、『代行者委員会』の一員となり『システム』にとって脅威となる運動を始める。だから邪魔な因子は今のうちに排除することにした。そういうことなの」

「脅威となる運動? それはどういう――」

「君が気にすることじゃない」



五月雨がまたしても素早く遮る。

「要は時雨鏡花は『ラプラス・システム』によって社会から不要な存在だと判断されたんだ。だから彼女は死ぬ必要がある」

「どうしてそうなるんだよ! だったら『お告げ』を使ってもっと穏便に事態を収拾できないのか?」

「彼女が『代行者委員会』に加わることは決定事項だ。『お告げ』を送ったところで彼女は『因果率』を下げてでも無視するだろう。それにさあ……殺してしまった方が手っ取り早いよね?」



僕は、先程彼に会った時の直感が間違っていなかったことを直感する。

彼の目は――今までたくさんの人間を殺してきた目だ。

「ラプラス……君は本当にそれでいいの?」



僕が問うと、ラプラスは静かに顔を背けて頷いた。

「いいの。だって私は所詮神様じゃなくて悪魔ですから」



答えになってない返答が、彼女の心の悲鳴に聞こえた。

残酷な質問をしていることは分かっている。

これは彼女の意思によるものじゃない。それを責める権利なんて僕にはない。

でも、このままじゃやっぱり時雨さんは――

「さて、そんなくだらないことを聞く為にラプに会いに来たのかい? ならもう話は終わりだ。次は俺に付き合ってもらおう」



そう言って、五月雨はゆっくりと僕の頬に手を添えた。

僕は憎悪を剥き出しにして彼の目を射抜く。

「いいね、その反抗的な目。俺の所有物に相応しい」



五月雨がゾクゾクと身を震わせる。

「僕に何をさせる気なの?」

「もちろん、神様に会わせてあげたんだから代償は大きい。そうだね、とりあえず体で返してもらおうか」

「逃げてもどうせ無駄だろうし、あんたの言う通りにしてやる。ただ、後一つだけ頼みを聞いて欲しい」

「欲張りさんだなあ。ラプに会わせた時点でもう願いは叶えたよね?」



嘆息しつつ、五月雨は尋ねる。

「でも君の願いが何なのかは凄く興味があるね」



「一日だけでいい……ラプラスを自由の身にしてやって欲しい」