時雨さんを無事邸宅まで届けてから一時間後。

僕は再びユグド・タワーの前に立っていた。

聖女の怪物を撃退した後、僕は時雨さんに聖女の怪物を倒せた理由を話した。

あれは魔法だなんてカッコいいものではなく、単なるカラクリに過ぎないことを。

聖女の怪物――あの殺戮兵器は行動を見るに『システム』の支援によって『ターゲットの行動パターン・戦闘能力等を予知できる殺戮兵器』の可能性が高い。

ところが僕は『魔女』なので例外的に『システム』の干渉を一切受けないのだ。

結果、聖女の怪物には僕の行動パターンを全く把握出来ず、挙句に僕が投げつけたコンクリートの破片すら防げなかった……というわけだ。

これがもし『システム』の制御下ではない完全な自動操縦だったら瞬殺されていただろう。

そんな一連の説明を終えてユグド・タワーへ向かおうとする僕を、時雨さんは執拗に止めようとした。

「貴方がこれ以上深入りする必要はないでしょ? 何が貴方をそこまでさせるの?」



僕は迷いなく答える。

「ラプラスと約束したんだ。その約束を守る為に僕は行かなきゃいけない」

「あの『未来視の神様』と? ……だとしても、それはここに残って私を守ることより大切なことなの?」



らしくない彼女の言葉に、僕は違和感を覚えた。

が、結局僕はその違和感を残したまま彼女に背を向ける。

「僕は時雨さんが思っている程強くなんかないよ。あの『魔法』だって僕の力で得たものじゃない。その代わり約束するよ……時雨さんを必ず救ってみせるって」

「私を……救う?」



彼女は戸惑いを浮かべたが、僕が決意を秘めた目を向けると何故か酷く寂しそうな顔をした。

まるでもう二度と会えないかのように。

「分かったわ。……その代わり必ず帰ってきて。単なるモブに助けられるのは癪だけど、私の為にそのモブごときが死んだら私はきっと自分を許せない」

「……うん、分かった」



かつてあれほど激しく嫌悪した相手に、普通そんな顔と言葉を向けられるだろう
か――そんな疑問を覚えつつも、僕はその後時雨邸を後にした。



ここからは『魔女』ではなく――『神様』を相手にした『天使』としての戦いだ。