季節は冬。

十二月の冬休み直前ともなれば、学校へ向かうまでの吹き付ける風が鋭利な刃物の様に思えてくる。

もっとも、この後学校で待ち受けている試練を考えればそよ風に等しい。

いじめは継続するし、伝染する。

『魔女』の烙印を背負っている上時雨さんの不興を買った今、僕が再び登校するのは飛んで火にいる夏の虫だ。

――まあ、すでに一度自殺しようとした僕からすればなんて事はないけど。

だが意外なことに……覚悟を決めて教室に入った僕に、クラスメートたちの罵声が飛ぶことはなかった。

寧ろ僕を恐れているかの様に、視線を合わせようとする者すらいない。

僕が恐る恐る自分の席(落書きでボロボロだったけど)に腰を下ろすと、同時に時雨さんが教室に入ってきて僕は思わず目を見張った。

綺麗だった彼女の目の下にはクマができて頬はこけ、おまけに右手が包帯でグルグル巻きになっている。

彼女が財閥の令嬢と知らなかったら、酷い家庭内暴力を受けていると勘違いしたかもしれない。

と、彼女は僕を見るなり小さく悲鳴を上げて飛び出して行ってしまった。

「し、時雨さん⁉」



思わず呼び止めようとした僕の前に、女子生徒が立ちふさがる。

「もうやめてよこの卑怯者! もう十分でしょう⁉ 復讐は果たしでしょ⁉」

「復讐? なんのこと? 僕はこの一週間学校に行ってないし、彼女には何もしてない!」

「白々しいことを……!」



女子生徒がカッとなったが、それを別の男子生徒が慌てて止めた。

「や、やめろ瑞樹! これ以上そいつに関わると同じ目に会うぞ!」

「だって……だってこのままじゃ時雨さんが……!」

「いいか、そいつは『魔女』だ。それも正真正銘、気に食わない相手を呪い殺せる本物だ」



男子生徒は僕の前に立つ。てっきり殴られるかと思ったが、彼は唐突に頭を下げて懇願した。

「夕立君、俺たちが悪かった。もう君に危害を加えたりしない。だから頼む、時雨さんをこれ以上傷つけないでくれ。もしそれが無理だと言うなら……」



彼の目が怪しく光る。まさか、やはり僕はこの場で彼らに粛清されるのだろうか――


「――せめて、僕たちだけは助けてくれ」


しかし。

その予想外の言葉を受けて僕が見渡すと……周りの生徒もみな、彼に同調する様に頭を下げていた。

こんな形で頭を下げられても……混乱した僕は、時雨さんが飛び出していった教室のドアを再び見つめる。



一体どうなっているんだ……?