「夕立始(ゆうだち はじめ)君。そろそろ起きないと体育の授業に遅れるわよ?」



夏の訪れを感じる穏やかな日差しが差し込む教室で。

淑やかな少女の声に、僕は飛び起きる。

「し、時雨さんっ……⁉ 僕に何か用ですか?」

「何を慌てているの? 誰にも起こしてもらえない誰かさんを見ちゃったら、放っておけないでしょ?」



そう言って、整った顔立ちの黒髪少女は少し悪戯っぽく笑った。

窓から差し込む陽光を背に笑う彼女は、太陽よりも眩しくて――僕は思わず目を逸らす。

「あ、ありがとうございます……! さ、先に行っててください、時雨さんまで遅れちゃうので!」

「そう? 念押ししておくけどサボりはダメよ?」



人差し指をコツンと僕の額に当てると、言の葉と甘い残り香を残して彼女は去る。

額に残る感触にドキドキして、そっと右手を当ててみる。

僕なんかを起こしてくれる寛容な生徒は時雨さんくらいだ。



なぜなら僕は『魔女』なのだから。