「君が、この世界の神様……」



予想していたとは言え、実際に突き付けられると頭が付いてこなかった。

こんな自分と同い年くらいの少女が神様? しかもユグド・タワーの最上階に幽閉されている?

「――そしてまたの名を『ラプラスの悪魔』。入口の問題を解いたのならもう知ってますよね?」



だけど、僕が質問することを予測したのか……いやきっと『予知』していたのだろう。

先手を切る様に言って、彼女は寂しそうな笑みを浮かべた。

「ごめんなさい。だからどのみち『天使』の君とは仲良くなれないの」



はっきりと告げられた、拒絶の意思。

『天使』と『悪魔』。

『人間』と『神様』。

笑ってはいても、コバルトブルーの瞳だけは笑っていない理由が分からないほど僕もピュアじゃないし鈍感でもない。

「そうか……だったら別に構わない。考えてみれば僕も君のことを何も知らないし、君が僕のことを覚えていないっていうなら僕らは関わる理由がない」

「そうね」

「じゃあ、僕はもう行くから」



そう言って通り過ぎる僕の背中に、彼女は言った。

「待って」

「何ですか?」

「邪険にしておいて申し訳ないですが……もう少しここで暇を潰してもいいのではないですか? 急ぐ理由もないし」



わけが分からず、僕は振り向いてラプラスを見つめる。

対して、彼女は目を合わせずにまるでごく普通の少女の様に俯く。

「ごめんなさい、意味が分からないですよね。でも下界の人と話すのは久しぶりだから……つい」



こんな殊勝な『神様』の姿を見てしまったら、とても突き放す気持ちになれない。

僕は自分でもよく分からない気持ちをため息にして出すと、彼女の前に引き返した。

「分かりましたよ。あと僕の方こそごめん……変な幻覚を鵜呑みにしたりして。現実に運命の相手なんているわけがないのに」

「運命の相手……?」



ラプラスが戸惑いを浮かべると同時に、僕にも疑問符が浮かぶ。

さっきと言い今と言い、ラプラスはまるで僕がこの部屋に入る直前に幻覚を見たことを知らない様な反応だ。

もしや『神様』ですら予知出来ないことがあるのだろうか? 例えば、人の頭の中で起こっていることまでは『視えない』とか?

「ここに入る直前、君とそっくりの姿をした少女の記憶を見たんだ。貴方は私に会いに来る為に生まれてきたのだから、って言ってた」

「その女性は何歳くらいだったの?」

「全身を見たわけじゃないけど、雰囲気からして君と同じくらいかな」



すると彼女は少し白けた口調で告げる。

「ならやっぱり私じゃない。それがもし昔の記憶だとしたら、私は歳を取らないってことになります」

「え? 神様は不老不死じゃないの?」



キョトンとして尋ねると、ラプラスは顔を赤くして抗議する。



「し、失礼なこと言わないでください! こう見えても肉体は普通の女の子です! だから歳も取るしお風呂も入るし下界のカフェでクリームあんみつだって食べたいんです!」