鋼鉄の壁を背に設置された玉座の様な装置――無数の配線で繋がれた無機質なその機械に、人形の様に精巧な姿をした少女が座っていた。

耳元にアンテナの付いた青いインカムを装着し、全身をケーブルで繋がれて目を閉じるその姿は――さながら安らかに眠るアンドロイド。

ただ服装は白いワンピースにフリルスカートという出で立ちで、インカムを外して街中にいたらごく普通の外人女性に映っただろう。

「ううん……」



少女は微かな呻き声を上げ、ゆっくりと目を開いた。

シルクの様に精細な銀髪の中に浮かぶ、サファイアの瞳。

間違いなくそれは、先ほどフラッシュバックした光景で見たものと同じだった。

その薄い桜色の唇がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「貴方は誰?」

「僕は……」



答えを用意していなかったことに今更気づき、僕は口ごもる。

「僕は……君に会いに来たんだと思う」

「私に? どうして?」

「昔、君にそう言われた気がしたんだ」



僕は今度こそ、確信に満ちた口調で告げると――



「何ですかそれは? 新手のナンパですか?」



彼女は露骨に顔をひきつらせた

……いわゆるドン引きというやつだった。

あれ? 何だか想像していた展開と違うぞ?

ここは『私もずっとここで貴方を待っていたの』とかいうセリフが飛び出す場面じゃないの?

「ち、違うよ! その声と見た目は、確かにさっき見たのと同じだ!」

「さっきどこで見たんですか?」



そう尋ねてジト目を向ける少女に、

「……頭の中で」



数秒の間を置いて顔を上げると、彼女の表情は可哀そうなものを見る目に変わっていた。

「だから違うんだって! 上手く説明できないけど、絶対に変な意味じゃなくて!」

「はあ……最近好きな異性に告白してフラれた直後ですもんね。心中はお察ししますがあまりフラフラする男性は好みではありません。出口は反対側ですよ」

「だからそれは……って、え⁉ どうしてそんなことを」



驚く僕に、少女は再び嘆息する。



「もう分かっているでしょう? 私がラプラス。下界では『未来視の神』と呼ばれている存在です」