踏み出した先には、想像を遥かに上回る世界が広がっていた。

ガラス張りの床と、その下に満たされユラユラ揺蕩う海より青い液体。

壁に沿って並ぶ卵型の球体と、中央に置かれた筒状のドーム。

ドームの中には気体か液体かも分からぬ紫の球体が浮遊し、よく見るとその表面には数字と秒針が浮かび上がって時を刻んでいた。

漆黒の天井には、まるで本物の夜空の様に無数の星が瞬いている。

例えるならそこは、不可思議な研究所と魔法使いの住処を足した異世界。

「ここはどこなんだ……?」



まさか世界最長のタワーの最高階に、こんな世界が広がっていたなんて。

恐る恐る進むにつれ、壁や床を伝うケーブルが侵食するツタの様に増えていく。まるでその奥にある強大な存在へと収束していくかのように。

ここに踏み入った時点で『それ』の気配は感じていた。

さっきのは幻聴や幻覚なんかじゃない。僕はずっと最初から、この先にいる存在に会いに来る運命だったんだ。


『Laplace's demon.』


脳裏を過る、壁に刻まれたあの文字。

期待と興奮で鼓動が早鐘の様に鳴り響く。このタワーに来た当初の目的すら忘れそうになる程に。

僕は吸い寄せられるように、青く染まった空間を進む。

そして遂に最奥の壁まで辿り着き、僕は驚きに目を見開いた。



「何だ……これ……?」