学生の時に頑張ってバイトをして買った、上等の白い革製の肩掛けの鞄に、財布とスマートフォン、それに通帳と保険証、あとは数の足りないトランプを詰めて狭い家に別れを告げた。

鍵はかけないでおいた。死体で見つかった時に自宅を捜索されるかもしれない。

だから『どうぞ見てください』と言わんばかりに、入口の床に鍵を寝かせた。

「さようなら」

口角だけを最高に引き上げ、心の中で扉の向こうに挨拶し、錆びついた鉄製の階段を下りた。